裁判所書記官になるには、裁判所事務官として採用されたあとに、裁判所の内部試験を受けて一定期間研修を受ける必要があります。
この記事では、内部試験の全体的な解説をします。
内部試験合格と研修が必要です。
裁判所書記官は、裁判所での内部試験を受けて書記官になります。
内部試験は2種類あります。
- 7月中旬に行われる裁判所職員総合研修所への入所試験
- 12月に行われる裁判所書記官任官試験
入所試験はCE(シーイー)、任官試験はCA(シーエー)と呼ばれています。入所試験はさらに一部と二部にわかれています。
法学部出身者は一部生、非法学部出身者は二部生と呼ばれ、試験範囲も異なっています。
本当は、一部生は「法学部出身」以外にも細かい条件や〇〇大学の〇〇専攻とか、いろいろ条件があるのですが、ごちゃごちゃするので割愛します。
大半の人は、法学部出身か、そうではないか、で受験資格が分かると思います。
試験名 | 受験資格 | 研修期間 | ||||
CE(入所試験) | → | 一部生(法学部出身) | 1年 | ↘ | ||
裁判所事務官 | ↘ | 二部生(法学部以外出身) | 2年 | → | 裁判所書記官 | |
CA(任官試験) | → | 在職年数5年以上 | 3か月 | ↗ |
私は裁判所書記官任官試験(CA)を経て書記官になりました。
その時の体験談をこちらでお話していますので、良ければ見てみてください。
裁判所書記官総合研修所入所試験(CE試験)
入所試験は7月中旬に試験があります。以前は、海の日よりあとに試験が行われていたのですが、今回は海の日より前に試験が行われていました。現在は、7月の第2週頃に試験が行われています。
一部生の試験範囲
一次試験は筆記試験です。
- 憲法、民法、刑法、民事訴訟法or刑事訴訟法の筆記試験(論文試験)
- それぞれ一行問題と事例問題が一問ずつ、計2問出題→最近は、事例問題が2問出ることが多い
- 一科目につき2時間の時間制限あり
- 憲法は一行問題が2問出題→最近は、事例問題のような問題がちょいちょい出題
- 民法は、家族法・相続法が範囲外→正確には、範囲外と明記されていないが、出題されたことが無いので、範囲外と記載
二次試験は口述試験で、法律問題と身上が聞かれます。
最近は、司法試験にチャレンジしていた人が裁判所事務官になることも多いです。学部しか出ていない人たちは、司法試験経験者たちと同じ試験を受けるので、学部出身の受験者の合格は昔より難しくなっています。
2022年、私の所属している庁で4人ほど受験をしましたが、受かったのは1人だけだったようです。その人は司法試験経験者ではありません。
まったく受からないというわけでもないので、書記官を目指す人はあきらめずに挑戦しましょう。
二部生
二部生も、一次試験は筆記試験です。
- 憲法、民法、刑法の筆記試験
- 各科目2問ずつ出題。こちらも論文試験
- 民法の物権(物権編の総則から所有権は出題。)と家族法・相続法が試験の範囲外、訴訟法の出題は無し
その他、出題される問題の違いはありますが、一部生の試験と変わりありません。面接があるのも一部生とおなじです。
合格すると研修所に入所し、2年間研修を受けることになりますが、二部生は、研修所に入る前に現場で研修をし、そのあと研修所に入所して研修をします。
これは聞いた話なのですが、二部生は研修所で憲法民法刑法の授業があるそうです。「またやるの~」って言っていた人がいるとかいるとか。
裁判所書記官任官試験(CA試験)
こちらは、1月中旬頃に試験があります。
今は試験の日程が早くなり、12月の上旬に試験が行われています。採用試験の日程も昔と比べると早くなっているし、試験が全体的に前倒しになってますね。
任官試験は高裁単位の合格人数ではなく、全国単位で合格人数が決まっているので、合格者は少ないです。 任官試験は、出身学部問わず憲法、民法、刑法、民事訴訟法or刑事訴訟法の論文試験が行われます。民法の家族法・相続法は範囲外です。こちらも、過去に出題されたことがないだけです。
受験は、裁判所事務官在職5年以降から受けることができます。任官試験は、筆記試験を合格しても面接で落ちる確率は高いです。実際、私の周りで筆記試験に受かった人の半分は面接で落ちていました。
合格すると、3か月の研修を経て書記官に任官します。
口述試験
筆記試験に合格すると、次は口述試験、つまり面接があります。面接は、主に民法、刑法の法律問題を聞かれる法律試験と、人柄を見る人物試験があります。
昔は、「筆記に受かったら最終合格したようなもん」と言われていたようですが、最近は面接でも落ちる人がいるようです。
面接試験では、六法が置かれているので調べることもできます。
口述試験は、法律の知識も必要ですが、「この人と働きたい」と思わせられるかが大事な気がします。実際、私の直前に面接を受けた人は「全然わからなかった。」と言っていましたが、受かっていました。
分からないなりに考えて答えようとする姿勢や、教えてもらった後の姿勢も大事なのかな、という印象を受けました。
次に、人物試験で「研修所は集団生活だけど、大丈夫?」というようなことを聞かれます。私も聞かれました。
これはもう常に聞かれる質問です。
3か月、1年、2年。期間は違っても、同じ空間で同じ人たちと共同生活します。集団生活を無事に過ごせるかは面接官も気になるところ。
合格して入所したものの、集団生活が苦しくなって現場に戻ってきた人もいる、と聞きました。研修所で仲良くなって結婚したりするひともいれば、馴染めなくて帰ってくる人もいたり。
大半の人は無事に卒業して書記官になっているので過度に心配する必要はありませんが、馴染めないという人もいるようです。
かくいう自分も、学校のような集団生活はやや苦手です。3か月だったから何とかなりましたが、もし1年だったら結構キツかったと思います。
裁判所書記官任官試験のスケジュール感
私は、任官試験で書記官になったので、任官試験のスケジュール感をお伝えします。
研修と表現していますが、実は3カ月間試験が行われているということになっています。試験を受けている雰囲気はありませんでしたが。
二次試験合格者の研修は6月下旬から始まり、10月1日に書記官に任用される、というスケジュールになっています。
6月下旬~7月中旬くらいまで研修所で研修
↓
7月中旬から8月中旬ころまで実地研修
↓
研修所に戻り、研修所で卒業試験のようなものを受ける
↓
9月中旬に最終合格通知
という流れです。そして、一度所属の部署に戻って事務官として仕事をし、10月1日に晴れて書記官に任官する、というスケジュールです。
こうやって見ると、研修期間3か月もないんですよね。
この短期間で、研修一部生が1年かけて学習する内容をすべてをこなすのは無理。研修で最重要のものを教えてくれるのですが、細かいことは現場で覚えてねというスタンス。
研修所の教官も、「時間がない」と言っていました。
研修終了間近になると、卒業試験があります。しかし、科目は民事と刑事のみ(調書を書く試験)なので、一部生・二部生ほど大変ではないようです。一部生・二部生もあるのですが、「今は試験期間です!」といったように、しっかりと試験期間が設けられていました。
「試験中なので静かに!」という張り紙がありました。
裁判所事務官試験のⅠ種、総合職(院卒者区分)で採用された人は、採用された年に入所試験を受験する場合は、筆記試験が全部または一部免除になります。
でも、総合職の合格者ってそもそも少ないから、書記官の筆記試験を免除にしてほしいから総合職を目指すのは現実的ではないと思います。
そもそも、そういう人は総合職に受かるくらい優秀だからネ…
試験名 | 受験資格 | 試験科目 | 研修期間 | |||||
CE(入所試験) | → | 一部生(法学部出身) | 憲法・民法・刑法・民訴or刑訴 | → | 1年 | ↘ | ||
裁判所事務官 | ↘ | 二部生(法学部以外出身) | 憲法・民法・刑法 | → | 2年 | → | 裁判所書記官 | |
CA(任官試験) | → | 在職年数5年 | 憲法・民法・刑法・民訴or刑訴 | → | 3か月研修 | ↗ |
入所試験と任官試験どっちがいい?
入所試験は採用1年目から受験ができるので、さっさと書記官になりたい人は1年目から受け始めたほうがいいでしょう。1年目で受かれば、最速で採用3年目から書記官なれます。
入所試験で受かると、授業だけではなく、刑務所の見学や体育祭など、任官試験ではできない体験ができます。
普段の仕事に関係しているけれど、普段は立ち入れない場所を見られたりするのはいい経験だと思います。最近はコロナで実施していなかったようですが、令和5年度は実施されました。刑務所や少年院、社会復帰促進センターなどなど。
私は期間の短い任官試験だったのでそういう経験はできませんでした。施設を見られて、現場の職員から話を聞けるのは羨ましいカリキュラムですね。
ほかにも、外部講師を招いた講義をしたりしているので、私が知らない色々な授業をしているのでしょう。長期間、おなじ空間にいると仲良くなって、書記官に任官して地方に散らばってもずっと交流が続いているという人もいます。
久しぶりにそちらに行くから、飲みに行かない?という交流が続いている書記官を見たことがあります。
一方、任官試験は、研修期間が短くて済みます。と言っても、在職して5年目にならないと受けられないので、採用されてすぐに受けられる試験ではありません。
任官試験は、全国から1か所の研修所にあつまるので、全国に知り合いができます。家庭事情(子供がいる等)で長く研修所に通えないという人は、研修期間が短くていいかもしれません。
実際、任官試験は入所試験と比べて年齢層は若干高めでした。中には、すでに結婚している人や子供がいるという人も。
任官試験で研修を受けていたけど、出産のタイミングになってしまい、途中で研修を離脱して、また研修を受けています、という人もいました。
さまざまな事情で、再度研修が受けられるようになっているようです。
まとめ
以上、書記官になるまでの過程を解説しました。
採用されると、試験案内が来ますし、勉強会のお誘いも来ます。でも、「書記官になるつもりはない」という人もいるので書記官にならないと浮く、試験を受けないとダメということは全くありません。
受けろ!という圧もないです。「受けないの?」とは聞かれますけどね。
自分は一時期、試験が嫌になっていたので、「勉強がイヤになったから受けません!」と言っていました。
仕事をしながら勉強というのは本当に大変なので、受験する皆さんは頑張ってくださいね。
おまけ
CEは裁判所職員総合研修所入所試験、CAは裁判所書記官任用試験と言っていますが、何の略称なのかは分からないそうです。
正式名称が記載された文書はないらしいです。最高裁ホームページより。
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