前回は書記官のお仕事の中でもメインのお仕事である「調書」についてお話しました。
ちょっと難しい話でした・・・
説明も難しくて四苦八苦でした・・・
でも、THE・書記官の仕事!って感じでした!
今回は書記官のお仕事、
【記録の管理】【訴状審査】【期日指定】
についてお話しますよ。
あれ?増えてる?
思い出したんです・・・
記録の管理
書記官のお仕事の一つ、事件記録の管理。
事件記録には何が入っているかというと、
起訴状(民事だと訴状・家事だと申立書)や当事者が提出した書類、それと、前回お話した「調書」が入っています。
これを「事件記録」として、事件ごとに保管しています。
記録の保管は書記官のお仕事で、裁判所法という法律で明記されています。
(裁判所書記官)
裁判所書記官は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務を掌る。
裁判所法60条2項
記録は、事件が進行中だと色々な人が見ます。
裁判官や書記官はもちろん、弁護士、事件の当事者本人、刑事事件なら検察官も見ることがあります。
何が行われたのかが分かる唯一の書類です。
もし、記録をなくした、なんてことになったら、上へ下へ当事者も巻き込んでの大騒ぎになります。
私の身近な人で「記録をなくした」という話を聞いたことはありませんが、
「昔なくした人がいたんだよ~」という話は聞いたことあります。
「どうしたんですか?」と聞いたら、
「提出物は当事者にお願いして、再提出してもらったらしい」という話を聞きました。
人によっては、自分の出したものが揃っていない、という場合もあります。
例えば、原告は自分の書類と相手(被告)の書類をどちらも持っていて、被告が自分の書類を持っていない、という場合は、
原告から、被告の書類も出してもらうことになります。
調書はデータで残っていますので調書は大丈夫そうですが、データで残っていない書類もあるんですよね。
今現在でも、データにはなっていない書類はあります。
そういったものは取り戻せません。
もちろん書記官は処分を受けることになります。
そういうこともあるので、書記官は記録の管理は神経を使っています。
私が事務官1年生のときに、記録を出したままお昼に外出したら、書記官から、
「ちゃんと記録は片づけないとダメだよ」と言われました。
それ以降は、長時間離席をするときは、記録をロッカーに入れるようにしています。
記録がない!
普段の仕事でも、「あれ?記録はどこ?」という状況になることはあります。
もし記録を保管するロッカーに入ってないと、「あれ?」となり、
裁判官に確認して「持っていない」、となると「え?」となり、
速記官に貸し出していないか、コピーするために貸し出していないかを確認して、
それでも見当たらない、となると、だんだん変な汗が出てきます。
記録がない!!!
執務室での捜索が始まります。
記録と記録の間に挟まっていないか
(薄い記録だとそういうことがあります。)
別のロッカーに紛れていないか
別の人が間違えて持っていないか
裁判官のロッカーに入っていないか
大捜索をします。
すると、だいたい
記録が奥に押し込まれてた
(記録が薄いと、分厚い記録に押されてロッカーの後ろに、ぐにゃっとなっていることがある)
持っていないと思っていた裁判官が持っていた
自分の記録の山に埋もれていた(記録が薄いと以下略)
など、ほぼ見つかります。
無事に見つかると執務室は、ほっとした雰囲気になります。
お騒がせしました。
いやいや、見つかってよかったね~
地獄の記録対照調査
年に1回以上、記録対照調査(きろくたいしょうちょうさ)という調査があり、
「ちゃんと記録はありますよ~」という報告をしないといけません。
主任書記官(略)は、…毎年1回以上定期的に、及び保管者の異動等により事務の引継ぎを行う場合にはその都度、自ら又は保管者等を補助者として事件簿その他の帳簿諸票との対照調査を行い、その結果を所属する裁判所の首席書記官(略)に書面で報告する。
事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(5 帳簿諸票との対照調査)より引用・抜粋
なんだか色々書いてありますが、
つまるところ、自分の担当している係の事件記録がちゃんとあるか確認して、報告してね、と言っています。
年に1回以上なので、裁判所によって回数が違います。
私が経験した裁判所は、簡裁は年に2回、地裁は年に2回、家裁は年に1回でした。
やり方としては、裁判支援システムから、終わっていない事件と終わった事件のデータを出力して、
自分の手持ちの記録と照らし合わせて、紛失などがないかをチェックします。
これも、部署によって大変さが全く違います。
民事(簡裁も地裁も)は件数が多いのですが、事務官に手伝ってもらえばそこまで大変ではありません。
刑事事件は民事事件と比べると件数が少ないので、一人でもなんとか数えられます。
もちろん事務官に手伝ってもらった方が速いです。
個人的に一番大変だったのが家庭裁判所調停係での記録対照調査。
冊数がやばい。
家裁は同じ当事者が様々な申立てをすることが多く、前の事件でどんなことを話し合ったのかを参考にするために、
終了した事件記録を参考としてくっつけて、担当係に引き継がれることが多いのです。
そんなことは知らなかった当時の私。
なんで終わった事件の記録がこんなにくっついてるの!?
えっ?それも数えるの!?
え゛ぇ゛!?
モノによっては記録が分厚くて、高裁の記録もくっついていたりするので、
厚い記録がヒモでくっついてて記録が連なって…
「ア゛~~~~~!!💢」
とても…大変でした…とても…時間がかかりました…半泣き状態でやりました。
終わった記録がくっついている、という家裁独特の在り方に慣れていなかったというのもありますが、とにかく大変でした。
もうやりたくない。
期日指定
しょっちゅう出てくる期日指定。
期日指定とは、裁判を開く日時を決めることです。
起訴状や、訴状、申立書の内容の確認をして、問題がなければ、期日指定をします。
正確には、
「期日は、申立てにより又は職権で、裁判長が指定する。(民訴法93条1項)」
「裁判長は、公判期日を定めなければならない。(刑訴法273条)」
というように、裁判長が指定するんです。
その日程調整は書記官の仕事です。
書記官は、当事者と裁判を開く日時を打ち合わせて、都合のいい日を確認したら、裁判長に印鑑をもらいに行きます。
裁判長が印鑑を押して初めて「期日が指定された」ということになります。
なので、厳密に言うと、期日指定は書記官の仕事ではなく裁判長の仕事です。
ですが、印鑑を押してもらうまでは、書記官の仕事になっています。
そして、部署によっては、事務官に任されている仕事でもあります。
事務官のお仕事シリーズでもお話しましたが、書記官の代わりに事務官が当事者と期日のやりとりをする部署もあります。
特に忙しかったり、異動して来たばかりだと、期日指定まで手が回らない書記官がいるので助かります。
ぼくのことかな?
訴状審査
民事事件では、期日指定の前に、訴状審査というものがあります。
【裁判長の訴状審査権】
1 訴状が第百三十四条第二項の規定に違反する場合には、裁判長は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。(以下略)
民事訴訟法137条
※なお、134条2項は「当事者及び法定代理人と請求の趣旨及び原因」というものを書きなさい、と書いてあります。
民事訴訟訴訟規則56条で、「裁判長は、訴状の記載について必要な補正を促す場合には、裁判所書記官に命じて行わせることができる。」
と書いてあるので、補正の連絡は書記官が行っています。更にいうと、実質、訴状審査は書記官が行っています。
補正(ほせい)とは、不備を直してもらうことです。
書記官が訴状を見て、直すべきところがあるかどうかを確認し、問題があれば裁判官と確認しながら、訴状を直してもらうかどうかを決めています。
なので、新件が来たら、書記官は中身を見て、補正が必要なら当事者に連絡して直してもらいます。
期日指定は訴状を補正してもらってからになることがほとんどです。
ちなみに、新しく来た事件のことを新件と呼んでいるよ。
書記官が行う仕事の流れとしては、こんな感じ。
新件受理 | → | 訴状審査 | → | 直しが必要 | → | 補正 | → | 期日指定 |
→ | 直しは不要 | → | 期日指定 |
なかのひとの経験
少し話が逸れますが、なかのひとの経験をば。
私が書記官として初めて仕事をした部署で、訴状の審査すらできていない状態の新件を溜めてしまいました。
初めての法廷の立会い、初めての調書作成、郵便で届いた書類の処理などで手一杯で、訴状審査まで手が回りませんでした。
簡単な訴状は処理していったのですが、厚めの訴状などは余裕がなく、そのままになっていました。
30日以内に期日を指定しなさいと決められています(民事訴訟規則60条)が、私は、その30日マックスまで訴状審査ができていない新件を何件も溜めに溜めてしまいました。
訴状審査ができていなければ期日指定もできません。
30日以内に指定ができなくてもペナルティはないのですが、遅いと当事者も困りますよね。
その溜めに溜めた状況を上司が見つけて、その上司や担当裁判官が訴状審査や期日指定を手伝ってくれました。
裁判官が訴状審査をして、OKだったものは上司が期日指定をする、ということをしてくれました。
溜めに溜めていた新件がなくなったあとは、なんとか自分でも新件を捌けるようになり、手伝ってもらうことはなくなりました。
「溜める前に言ってね」と、着任時に裁判官からも言われていたのですが…溜めてしまいました。
あのときはとっても助かりました。
そういうことを言ってくれる優しい裁判官には、どんどこ相談しに行きましょう。
きっと力になってくれるでしょう。
書記官もいろいろな仕事をしています。
裁判所書記官もいろいろな仕事をしています。
他にも細か~い仕事はいくらでも出てきますが、今回は分かりやすくメインのお仕事についてお話しました。
ひとつひとつの仕事は大変ではなさそうに見えますが、これが何十件も立て続けに来るので、かなり大変です。
初めて書記官になりました!という人は、わりと新件を溜めがちです。
自分のペースができるまでは大変ですが、周りの人に手伝ってもらいながら頑張ってほしいです。
ぼくは割とヒィヒィいいながら仕事してますね。
そうですね…
コメント
コメント一覧 (2件)
いつも楽しみにしています。
私は民事(簡裁記録係はあるけど)の経験はないので、訴状チェックは行ったことないですね。
法律事務所に居ても、枚数の多い訴状を見たことはないですかね。
記録紛失は大事件ですよね。
起訴状シュレッダー事件は伝説になっていますが(^_^;)
とにかく、裁判所で保管しているものの紛失はヒヤヒヤものですよね。
コメントありがとうございます。
宣誓書シュレッダーは聞いたことありますが、起訴状シュレッダーは初耳です!恐ろしい・・・