前回は、刑事部の裁判所事務官の仕事を紹介しました。今回は、民事部の裁判所事務官のお仕事の紹介です。

民事部の裁判所事務官の仕事
民事部も、刑事部と同様にたくさんの部署があります。こちらでも、よくテレビで見るような裁判をしている部署を例にしてご紹介します。
民事部の裁判所事務官の主な仕事は、以下のとおりです。
- 廷吏事務
- 新件処理
- 期日指定と訴状等の発送
- 郵券返還
すべてではありませんが、代表的な仕事はこのような仕事です。
廷吏事務
民事部での裁判所事務官の仕事といえば、廷吏事務(ていりじむ)。今は裁判所事務官の仕事になっていますが、昔は、裁判所事務官とは別に「廷吏(ていり)」としての採用枠がありました。
民事事件は、30分間のあいだに沢山の期日を入れるので、それだけ法廷に来る関係者も増えます。
書記官くまもう一度言いますが、裁判を開く日時のことを、裁判所では期日(きじつ)と呼びます。
沢山の事件をさばくために、裁判所事務官の力が必要になってくるのです。廷吏とは、法廷内における仕事のことで、法廷内でこのようなことをしています。
- 法廷内の秩序維持
- 事件の呼び上げ
- 当事者の出廷カードへの記入の促し
- 書類のやりとりの仲介 その他…
刑事事件では、1つの事件につき1時間でしたが、民事事件の場合は、30分の間にいろいろな事件の期日を入れるので、時間と場所が被っていても構わず事件の期日を入れます。でも、30分間で10件が限度です。



調子に乗って入れすぎると裁判所書記官がしにます。
刑事事件のように、一つの事件にじっくり時間をかけるというイメージしていると、戸惑うかもしれません。民事事件は次から次へと事件を捌いていくので1つの事件に5分もかけていられません。
法廷で時間をかけられないからこそ、事前の書面の提出のような期日外での準備が重要なのです。
①法廷内の秩序維持
「秩序維持」といっても難しいことはありません。例えば、法廷内では帽子を脱がなければいけませんが、帽子を脱いでいない人を見かけたら、傍聴席に行って脱帽するように促します。
もし不審な人物を見かけたら、行動を注視したり、場合によっては裁判所書記官や裁判官に報告します。もちろん法廷が荒れそうな事件の場合は、裁判所事務官だけでなく、いろいろな部署から応援が来るので、そんなに心配することはありません。
あとは、裁判官か法廷に入って来た時に、法廷にいる人全員が起立、礼、着席をするのですが、その「起立」の号令をかけるのも裁判所事務官の仕事です。



ご起立ください。
今は「ご起立ください」と言っていますが、昔は「起立!!」と号令をかけていたようです。※もちろんメガホンはありません。裁判官によっては、号令をかけないでほしいという人もいるので、その時は号令はかけません。
なので、「号令をかけないでほしい」という裁判官が入って来たら、なんとな~く立って、なんとな~く礼をして、なんとな~く座る、という状態になります。
起立をしない人がいてもそれは自由なので、とくに起立を促すことはしません。
②事件の呼び上げ
「事件の呼び上げ」ってなんぞや?と思いますよね。事件の呼び上げというのは、法廷内で、事件番号、原告の名前、被告の名前を読み上げることです。



令和5年(ワ)第1000号
原告○○、被告△△!
こんな感じで、大きい声で読み上げます。※もちろんメガホンはありません(2回目)。
これは、やらなければいけないことになっています。
民事訴訟規則62条
口頭弁論の期日は、事件の呼上げによって開始する。
簡単に言うと、お呼び出しです。ちょっと違う、かもしれませんが、いろいろな事件の関係者が傍聴席で待っているので、お呼び出し♪な一面があることも否めない…
③当事者の出廷カードへの記入の促し
当事者が法廷に入って最初にすることは、出頭カードへの名前の記入です。裁判所書記官は調書を作成する際に、この出頭カードで誰が出頭したかを確認しています。裁判所は、出頭カードに名前を書いてもらうことで、当事者の出頭を確認しています。
出頭カードに名前を書いてもらわないと、当事者が来ているか把握できないので、当事者が法廷内にいたとしても審理を始められません。
事前に「その日は欠席します」という連絡が入っている事件以外は、双方揃うまで始めません。法廷に入って来た人が、出頭カードを書かずに傍聴席に座っていることもあります。そこで裁判所事務官の出番です。



事件の関係の方ですか?
と、傍聴席に座っている人に声をかけるのです。もし事件関係者(原告や被告)だった場合は、出頭カードに名前を書いてもらいます。これで審理が始められます。たまに、



事件の関係の方ですか?



傍聴してるだけです。



あっ…
となることも。でも裁判所事務官も裁判所書記官も同じような経験をしているので気にせず話かけましょう。
④書類のやりとりの仲介
仲介ってなに?と思われるかもしれませんが、当事者が出頭カードを書く際に、自分の主張を書いた書類を提出してくることがよくあります。
裁判所事務官はそれを受け取ったり、裁判所書記官から事前に預かっていた書類を相手に渡すなどして、裁判がスムーズ進行するようにサポートします。



この書類は相手の人に渡しましたか?



まだです。



相手の人に渡したいのですが、もう一枚同じものを持っていますか?



あります。どうぞ。



ありがとうございます。
では、呼ばれるまで傍聴席でお待ちください。
こんな感じになります。もし持っていない場合は、裁判所用として渡された書類を相手の人に見せたり、法廷を抜けてダッシュでコピーを取りにいくこともあります。
裁判所書記官は現在進行中の事件の審理で手一杯なので、書類の受け渡しをしてくれる裁判所事務官の存在はとてもありがたいのです。
⑤その他
廷吏事務の一環として、廷吏に入る前に裁判所書記官と打ち合わせをします。被告の出頭or不出頭、当事者(原告や被告のこと)にその場で渡す書面があるかどうか、などを事前に打ち合わせます。
民事事件は30分間に10件近く事件を入れます。次から次へと事件を捌いていくので1つの事件に5分もかけていられません。法廷で時間をかけられないからこそ、事前の書面の提出のように期日外での準備が重要なのです。
さきほど、審理は、当事者双方が揃わないと始められないと言いましたが、片方が欠席すると分かっていれば、一方の出席予定の当事者が出頭すれば審理が始められます。
連絡がなく出頭しない場合は、しばらく待ちます。その際に、裁判所事務官が法廷の外に出て、当事者がいないか声掛けをすることもよくあります。



〇〇さんいらっしゃいませんか~?
※もちろんメガホンは(略)。
誰もいないことが確認できれば、片方が欠席したまま審理を始めることになります。廷吏事務はやることが多いですが、とってもわかりやすく言うと、法廷の交通整理だと思ってもらえると良いですね。
新件処理
ここでもあります、新件処理。民事部では、弁護士や一般の人からの訴状が事件の受付係に提出され、受付係が内容を点検し、各部署に配布します。
裁判所事務官はそれを受け取り、担当裁判官と担当裁判所書記官を決めます。決めるのは裁判所事務官ですが、決め方は部内できちんと決まっているので、初めてでも困ることはありません。
裁判所事務官も訴状の内容を確認し、郵便切手があれば切手の枚数を確認し、裁判所書記官に事件を引き継ぎます。刑事部では、この段階で郵便の発送準備まで行っていましたが、民事部では、訴状を送るのは期日を指定してからなので、この段階では郵便発送までの準備はしません。
刑事事件では、「さっさと起訴状謄本を被告人に送りなさい」だったのに対し、民事事件では、
1 訴えが提起されたときは、裁判長は、速やかに、口頭弁論の期日を指定しなければならない。
民事訴訟規則第60条
ただし、事件を弁論準備手続に付する場合(付することについて当事者に異議がないときに限る。)又は書面による準備手続に付する場合は、この限りでない。
2 前項の期日は、特別の事由がある場合を除き、訴えが提起された日から三十日以内の
日に指定しなければならない。
となっています。さっさと期日を指定しなさいとは書いてありますが、さっさと訴状を送りなさいとは書いていないですね。
訴状は期日が指定されてから呼出状と一緒に送るので、刑事事件のようにさっさと送らなくても良いのです。なので、訴状の点検の段階では、発送準備まではしません。
期日指定と訴状等の発送
やっぱり出ました期日指定。裁判所書記官の訴状点検が終わって期日指定ができるものから、順次、期日指定をしていきます。民事事件の場合は、基本的に原告の予定しか聞きません。
- 原告の都合のいい予定を聞き、
- 法廷と時間が空いているかを確認して、
- 裁判長に決裁のハンコをもらって期日を指定します。
30分の間にたくさん事件を入れると、当然法廷に来る人も増えます。そこで、先ほどの裁判所事務官の廷吏事務が必要になってくるのです。
期日を指定したら、被告あての訴状や『口頭弁論期日呼出状 及び 答弁書催告状』という書面を準備して、裁判所書記官にチェックしてもらい、発送します。簡単に言うと、期日に来てね、答弁書出してねという書面です。
郵券返還
郵券とは郵便切手のことです。郵券返還は、終了した事件で使用せずに余った郵便切手を当事者に返すことを言います。
地方裁判所では、「保管金(ほかんきん)」と言って、当事者が振り込んだお金を郵便発送に使うので、切手を提出しないこともありますが、簡易裁判所ではまだまだ切手が使われています。
しかも、当事者に提出してもらう切手は、多めにもらうことがほとんどなので、切手が余るというのは、よくあることなのです。その切手を返すのも、裁判所事務官の大事な仕事です。



地味な作業ですが、これが結構めんどくさい。
残りの切手の額を数えて、返還書を付けて、封筒に切手を貼って、郵便で返します。チマチマ。
民事事件は件数が多いので、放置すると切手を返さないといけない事件がどんどんたまっていきます。そのため、こういう作業をしてくれる裁判所事務官はとてもありがたい存在です。
裁判所事務官はとても大切な存在
廷吏事務をしているときは、裁判所事務官も役に立っている!という実感が強かったですが、執務室での仕事は、役に立っている実感が少なかったです。わりと地味な仕事が多いかも。
しかし、裁判所書記官という立場になってみると、一見地味に見える訴状発送の準備や郵便切手の返還という仕事が、どれだけ裁判所書記官を助けているかに気付かされました。
前回も言いましたが、裁判所事務官が有給休暇で不在だと、裁判所書記官がてんやわんやすることもよくあります。裁判所事務官も無くてはならない存在なのです。








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