日本の刑事裁判は、有罪率99.9%と言われていますが、私は残りの0.01%に2回出会ったことがあります。
有罪率99.9%…?
死刑判決の言渡しに立会ったことはありませんが、無罪判決に立会ったことは2回ありました。
一度目は全部無罪
二度目は一部無罪
全部無罪は名前のとおり、起訴された事件について無罪になることです。
一部無罪は、一人の被告人が複数の事件について起訴された場合で、一部の事件について無罪、残りは有罪になることです。
日本の刑事裁判は、有罪率99.9%と言われていますが、
私がこの無罪判決に立会ったのはわずか2年の間です。
1年に1回のペースですね。。。
詳しい事件の内容には触れられませんが、一つは「これは有罪にするには無理があるやろ」
というのと、もう一つは、
「これはこの人がやったかどうかは分からんな…」
というものでした。
ちなみにどちらもいち書記官の個人的な感想です。
無罪の主張
私はやっていません、だとか、その罪にあたる認識はなかった、とか言い方はいろいろですが、
無罪主張となると、「さーて長くなるぞ(腕まくり)」という気持ちになります。
証人や被告人、被害者から話を聞くので、速記官を入れたり、録音反訳をしたりして、証拠調べをしていきます。
ちなみに録音反訳(ろくおんはんやく)というのは、法廷で行われた証人尋問や被告人質問を録音して、文字起こしを外注することです。
これらは、検察官・弁護人がコピーを取りにくるので、次回の審理までに完成させて双方がコピーを取れるように間に合わせないといけません。
審理が終わると、裁判官から雑談としてですが、「どう思う?」というように話しかけられることもあります。
裁判官も悩むよね。(*-ω-)
もちろん書記官からも「どう思います?」と聞くこともあります。
その返事で、書記官はなんとなく裁判官の感触や方向性を見ていたりします。
無罪判決の草案
通常の事件は判決日の1週間前くらいに判決の草案をもらうのですが、その時はだいぶ早くもらいました。
判決日も、通常は結審から1週間後に期日を入れるのですが、その時は数週間後に入りました。
裁判官が判決を書く時間と、書記官が点検する時間が必要だからです。
何度か審理を重ねていって、私としては、有罪無罪どちらもあり得るなと思いました。
今考えても、裁判官の心証次第だなとしみじみ思います。
結果として無罪判決の草案が来たので、いつも以上に慎重に点検しました。
無罪主張だと結果がどうであれ、検察官・弁護士が控訴するかどうかを含めて読み込むからです。
言葉の言い回しや、証拠に基づいているか、など、かなり時間をかけて点検しました。
時間をおいて、三回くらいチェックした気がします。
裁判官と文章の言い回しについて話し合ったりもしました。
判決当日
当日は普段通り判決に臨んだのですが、
「主文。被告人は、無罪。」
と言い渡されたときに、さっと席を立つ傍聴人が。
「あれ?検察庁の人かな?それとも警察?マスコミ??でも普段マスコミいないけどなぁ」
と思いました。
部屋に戻って、上司から「マスコミいた?」と聞かれたので、
「いなかったと思うんですが…主文のあとすぐに出て行った人はいました」
と報告しました。
そしたら、なんとマスコミでした。
のちに総務課から、マスコミから判決の要旨が欲しいと連絡が来ていると言われました。
でもなんで判決日にピンポイントでマスコミが?
と思ったのですが、どうやら開廷表の判決言渡しの時間を見て来たようです。
だいたい、判決だと5分間とか10分間で開廷表に掲示していることが多いのですが、
その判決の時は結構長時間で掲示していたので、それを見つけたみたいです。
判決の時間で察知するのか~と勉強になりました。( ..)φ
そのあと、追加追加でいろんな新聞社から判決の要旨の請求がありました。
新聞社は判決の要旨を見て記事にするんです。
でも、それ以外は何事もなく終わっていったので良かったです。
閉廷後に裁判官が
「傍聴席の警察官が睨みつけてた(気がした)」と言っていました。
全然気づいていませんでした(;^ω^)
無罪判決を出して終わり…ではないのです。
無罪判決を受けると、国に対して、一定の金銭補償を請求することができます。
これは期間内に請求書を裁判所に提出しないといけないのですが、提出されると、計算するのは書記官なのです…
刑事補償請求
無罪判決を受けた事件において、逮捕または勾留されていた期間がある場合に、その身体拘束期間に対する補償を請求することができます。
これは、刑事補償法という法律で定められています。
逮捕または勾留されていないと、この請求はできません。
つまり、在宅で起訴されていた場合は請求できないんです。
保釈された場合も、保釈されていた期間は補償の対象ではありません。
内容としては、逮捕または勾留されていた期間 ✕ 1日当たり1000円~1万2500円
なのですが、裁判官と相談して、最初から1万2500円で計算しました。
これは、書記官が計算して裁判官の判断をもらいます。
(´・ω・`)タイヘン
この1万2500円は安すぎるのではないか、という議論は前からあります。
こちらの計算はそんなに大変ではないのですが、大変なのは、むしろ次に書く無罪費用補償請求の方です。
無罪費用補償請求
こちらは刑事訴訟法で定められているものです。
ざっくり言うと、被告人と、被告人の弁護士だった人は、公判準備・公判期日に出頭するのに要した旅費、日当、宿泊料を請求できる、というものです。
先ほどの刑事補償は、身体拘束されていた期間を調べるだけでいいのですが、
こちらは、弁護士事務所から裁判所までの旅費を調べたり、100キロメートル以上だといくらになる、
とか、
事務所から一番近い裁判所との比較でどうのこうの…
とか、調べることがひじょーーに多いんです。
被告人が身柄が拘束されている場合は、旅費や宿泊費は発生しませんが、日当は出ますからね…
被告人が国選弁護人を選んでいた場合は、法テラスというところが支払うのですが、
私選弁護人だった場合は国が支払わないといけないので、請求を出してもらうと同時に証拠を出してもらって、書記官が調べて計算して、裁判官に判断をしてもらいます。
刑事訴訟規則138の9に、裁判所は、裁判所書記官に補償すべき費用の額の計算をさせることができる。
って書いてあるんですよ。
一生懸命計算しました。(´・ω・`)ガンバッタヨ
このように、無罪判決を出して終わり、というわけではないんです。
これらの決定の内容に不満があれば異議申し立てができるのですが、異議は出ずに無事おわりました。
おわりに
刑事部の書記官になったときは、まさか自分が無罪判決に立会うなんて考えもしませんでした。
でも、同じ部の別の書記官も無罪判決に立会ったり、別の部でも無罪判決が出たり、
0.01%と言われる割にはしょっちゅう出てるな?という印象でした。
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