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消えゆく職人│裁判所速記官

裁判所速記官とは、訴訟の当事者や証人の供述を逐語で記録する人のことです。よく、「いつも裁判所書記官がやっている仕事でしょ?」と思われがちですが、実は裁判所速記官がやっている仕事です。

 

目次

裁判所速記官とはどんな仕事?

裁判所速記官とは、訴訟の当事者や証人の供述を一字一句漏らさず逐語で記録する専門職のことです。「それって裁判所書記官の仕事では?」とよく思われがちですが、実は裁判所速記官が担っている仕事です。法廷で飛び交う言葉を瞬時に正確に記録するという非常に重要な役割を担っています。

正直言うと、調書を作るのは裁判所書記官の仕事なので、裁判所書記官が作るのが本来の仕事ですが、仕事の量的に毎回やるのは無理です。無理無理。

裁判所速記官は,法廷に立ち会い,訴訟当事者や証人などが裁判官の前で供述するのを速記する事務などを行います(裁判所法第60条の2)。

裁判所速記官は,証言等の一つ一つの言葉を逐語的に記録する必要がある場合に裁判所書記官と一緒に法廷に立ち会って,速記録を作ります。

一般に,速記の方法にはいろいろあり,手書きの速記を思い浮かべる人が多いと思いますが,裁判所速記官は,速記タイプライターを使用して証人の供述などを速記符号として記録し,法廷が終わった後で,速記符号を反訳して速記録を作成するという方法をとっています。

裁判所HP

「速記タイプライターを使用して」とありますが、裁判所速記官いわく、「裁判所支給の物は使い勝手が悪くて自腹で機器を買ってずっと使っている」と言っていました。当時、自腹で50万円くらいしたと言っていました。

購入したのは何十年も前だったそうですが、公務員なのに自腹で高額な機材を買わなければ仕事にならなかったと聞いて、とても違和感を感じました。

裁判所速記官が使う機械について

裁判所速記官が使うのは「ステンチュラ」と呼ばれる特殊な速記機器です。一般的なキーボードとは異なり、複数のキーを同時押しすることで、決まった略号や事前に準備した略号を使って発言をリアルタイムで記録していきます。

見た目はこんな感じです。

© Foto: Ra Boe / Wikipedia, CC BY-SA 3.0 de, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=23369035による

一見すると謎の機械にしか見えませんが、熟練の裁判所速記官の手にかかれば、話す速度に遅れることなく言葉を記録していくことができる、まさに職人技の道具です。

「裁判所」というのも、アルファベット二文字で表記していると教えてもらったことがあります。いちいち「さいばんしょ」と打たなくてもいいのです。だから喋ったことをその場で記録することができるんです。

こうした略号を駆使することで、話し手の発言スピードにリアルタイムで追いつき、その場で発言を記録することができます。裁判所速記官の技術の核心は、この膨大な略号体系を瞬時に引き出す能力にあります。

そして、打ち込んだ記号を機器で読み込むと速記録の元ができあがります。

事前準備の重要性

裁判所速記官は、事前に裁判の記録を読んで、証言に出てきそうな語や固有名詞を事前に略号として準備しておきます。その事件特有の言葉を準備しておくことで、本番中にスムーズに記録できるわけです。

裁判所書記官からも、「この単語がよく出そう」というのを裁判所速記官に伝えておくと、速記作業がしやすくなります。

証人を何人も呼ばないといけない事件や、裁判員裁の時などは、毎回のように速記をお願いしていました。仕事をお願いすることで結果的に自分の仕事が早く終わります。さらに、裁判所速記官側も仕事の実績ができるので有難いと言っていました。ウィンウィン。しょっちゅう速記のお願いをしていたので裁判所速記官とも仲良くなっりました。

書記官くま

裁判所速記官にはとても助けられました。

チームワークと速記録の納品

裁判所速記官は、一人がずっと法廷に入りっぱなしというわけではなく、一定の時間ごとに交代しながら、チームで手分けして証言を記録していきます。

事前に「急ぎでお願いしたい」と伝えておいたり、「誤字脱字の点検が完全でない状態でもかまわないから早めに草案を渡してほしい」と頼んでおくと、早ければ翌日には速記録が上がってきます。この段階ではまだ誤字が残っていることもありますが、内容を確認するには十分なクオリティです。裁判所速記官の頑張りの賜物であり、本当にありがたい存在です。

裁判所速記官の現状

そんな素晴らしい裁判所速記官、平成10年(1998年)から新規養成をやめており、今は在職者が退職するたびに減る一方です。補充もなく、自然消滅を待つばかり……絶滅危惧種どころか、制度的に終わりが決まっています。

現場で使う人間からすれば、こんなに素晴らしい仕組みがなくなっていくのは、正直なところ痛手以外の何物でもありません。

裁判所速記官にお願いできなかったときは?

証人尋問の速記をお願いできなかったときは、委託している民間業者に反訳(文字起こし)をお願いすることになります。録音反訳(ろくおんはんやく)といいます。ただ、これが結構手間なんです。

  • 法廷で録音した音声をCDに焼く
  • 尋問で示した書類のコピーを添付
  • 何分から誰が喋り出しました
  • 専門用語や固有名詞の表記はこうです、といったことをメモする

など、準備にそこそこ時間がかかるんです。そのメモをCDとともに発送して、反訳したものが帰ってくる、という流れになります。最短でも反訳書が戻ってくるまで5日程度かかります。

現在はメールでやりとりしているので、完成まで時間が縮まりましたが、それでも準備がめんどくさいです。一方、裁判所速記官に頼むと、その作業が全くないので、速記録が完成するのを待つ間にほかの仕事ができます。

裁判所速記官と録音反訳の差は?

裁判所速記官は法廷に立会っているので、証言者の口元を見ながら何と言ったのか把握したり、聞き取れなかったらその場で裁判所速記官本人が聞き返すこともできます。

ですが、録音反訳だと、録音のボリュームが小さかったり、証人がごにょごにょ喋ったりすると、法廷にいる人は聞き取れても、業者が聞き取れるとは限らないのです。すると、完成した文章の一部に「聞き取り不能」と記載されて戻ってきます。

「聞き取り不能」として戻ってきても事件内容を把握している裁判所書記官が、これはこう言っていたなと覚えていたり、話の流れから聞き取れたりするので実務上は大きな問題にはならないことも多いです。

それでも、やはり速記官のほうが安心感があります。その場で聞き直してくれるという即時性は、何物にも代えがたいです。

音声認識システムはどうなの?

裁判所には、「音声認識システム」というものがあります。法廷での発言をリアルタイムで自動的に文字化してくれるシステムです。裁判員裁判の際にはこれを使うことが定められています。

書記官くま

ただ、認識結果の精度が悪すぎる。

裁判員裁判のときは、音声認識結果を検察官と弁護人にディスクに焼いて渡しています。確認したい発言をキーワード検索するために使っているらしいですが、「これって本当に使い物になってるんだろうか?」と疑問に思うことが何度もありました。

開廷中に裁判所書記官は認識結果を見ていますが、かなり不正確です。事前に単語登録しておけば、固有名詞は何とかなりますが、単語登録する時間も正直ありませんし、そこに時間を使ってもあまり意味はないと思っていたので単語登録はほとんどしませんでした。

最近、機器の更新があって音声認識もかなりマシになりました。技術の進歩に期待しつつも、現時点では裁判所速記官に頼むほうが圧倒的に信頼できるというのが現場の本音です。スマホの音声認識のほうが性能いいんじゃなかろうか。

まとめ

最終的にはいなくなってしまう裁判所速記官。文字を起こすというだけなら録音反訳でもいいですが、立会うまでにやる準備とか完成までの速さとか正確性とか、どうしても裁判所速記官にかなわないところはあると思います。

いろんな弁護士会が裁判所速記官の養成再開を求める声明を出しています。私自身も、速記官の採用・養成を再開してほしいと心から思います。裁判所速記官に助けてもらったことを思い出すたびに、いなくなってしまうのは本当にもったいないと感じます。制度上の都合で廃止が決まったとはいえ、現場のニーズは確実にある。どうか再考してもらいたいものです。

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