今回は検察事務官のお話です。
裁判所に裁判官がいて裁判所事務官がいるように、
検察庁には検察官がいて検察事務官がいます。
この二つの事務官はどちらも裁判を行う上での、縁の下の力持ちなのです。
ですが、お互い縁の下にいるのでよくわからないんですよね。
法学部生の方で、裁判所事務官か検察事務官を将来の選択肢に考えている人もいるかもしれません。
今回は、検察事務官のお仕事を、接点がある限りでご紹介します。
主に接点があるのは、刑事部と少年部の仕事においてです。
が!
私は少年部に行ったことがないので、刑事部との関わりについてご紹介します。
捜査記録の貸し借り
一番最初に思いつく検察事務官との関わり。
それは、勾留請求と勾留更新です。
勾留するかどうか、また、勾留期間を更新するかどうかを判断するのに、検察庁が持っている捜査記録を見る必要があります。
そこで、捜査記録の貸し借りが行われます。
捜査記録が薄ければいいのですが、大量にあると運搬が大変です。
台車で運ぶときは、ひっくり返さないようにしなければいけません。
イメージとしてはこんな感じ。
記録が大量にある場合は、折り畳みコンテナ(略してオリコン)というものに捜査記録がぎっしり入っています。
これがオリコン。
自分の身長ほど(かなり誇張あり)に積みあがったオリコンを、台車でえっさほいさと運ぶわけです。
しかも捜査記録は、全部紙なのでめちゃくちゃ重い。
(これがデジタルになる日は本当にくるのだろうか…。)
裁判所と検察庁の建物が隣接していればいいのですが、離れていたり道路を挟んで向かい側にある場合は大変です。
一般の人の往来のあるなか、捜査記録の入った台車を押していくのです。
ガラガラゴロゴロ。
もし段差にひっかかって台車ごとひっくり返すとまぁ大変。
なので、こういう大量の捜査記録を運搬するときは、最低二人で運ぶことになります。
三人で運んだこともありました。
なので、検察事務官がこの大量の記録を持ってくる姿を見ると、こう思います。
あ、やばいの来た。
電話や書類のやりとり
公判を担当する裁判所の刑事部には、それに対応する検察庁の公判部があります。
裁判所刑事1部の担当は第1検察官室です、みたいな感じです。わかるかな…
基本的に、自分の部署を担当する検察庁の公判部とやりとりが行われます。
ココでさんざん書いた期日指定。
期日の調整は、検察事務官とやりとりをすることがほとんどです。
電話に出るのは、基本的に検察事務官です。
期日の候補日をいくつか伝えて、その場で返答をもらえるときもあれば、
「検察官に確認して折り返し連絡します。」
と言われることもあります。
検察庁側からの電話を受けるときも、基本的に検察事務官からかかってきます。
検察官が直接電話をかけてくることもありますが、そんなに多くありません。
なので、検察官本人から電話がかかってくると、
お、なんだなんだ?何かあったか?
と思います。
ほかにも、書類のやりとりや、「法廷にパソコンなどの機材を持ち込んで、公判期日で使いたい」
という要望も受けるので、事前にセッティングをしてもらうための日時の調整なども行います。
このように、検察事務官とは頻繁にやり取りをすることになります。
その他の関わりあれこれ
検察事務官との関わりは、挙げるとキリがありません。
なので、他の部署については、簡単にご紹介します。
徴収係
判決が罰金刑だったときにかかわりがあります。
簡易裁判所で略式命令を担当していると、この徴収係にはよく行きます。
令状係
勾留状などの令状請求や、勾留更新・保釈などでかかわりがあります。
勾留満了日(勾留の期限が終わる日にちのこと)を管理しているのもここ。
しょっちゅう行く係です。
執行係
実刑判決が確定したときに、判決謄本をこの係に持っていきます。
判決の誤字脱字もチェックしていて、たまに指摘されることがありました。
記録係
刑事記録は検察庁が保管することになっているので、確定した事件記録は、この係に持っていきます。
主にかかわるのは、裁判所の記録係の職員です。
証拠品担当
頻度はとても低いですが、証拠品(凶器などの実物)が裁判所に提出されたときにかかわります。
最近は実物があまり提出されないので、かかわりは少なめです。
捜査担当の検察官事務官
弁護人から「勾留状の謄本がほしい」と言われたときに、勾留状のコピーをもらいに行くことがあります。
捜査記録は検察庁が持っているからです。(庁によっては、令状係が窓口になっていたりします。)
捜査担当の検察事務官に電話をするときは、ちょっと緊張します。
被疑者の取り調べ中でも「入ってきて良いですよ」と言われることもあれば「取り調べ中なので後にしてください」
と言われることもあります。
取り調べ中に執務室に入ったときは、被疑者が目の前にいるので緊張しました。
公判担当の窓口になる検察事務官
どういうこと?と思うかもしれませんが、公判担当の検察事務官に直接書類を渡すことはほとんどなく、
公判担当あての書類を取りまとめる部署に行きます。
刑事部の裁判所事務官は、この係にもしょっちゅう行くので、ここの検察事務官と顔見知りになります。
などなど。
もちろん検察庁の規模によっては、分業具合はさまざまです。
検察事務官になりたい!という人が、どういう仕事のイメージをしているかは分かりませんが、
捜査担当以外にも、たくさんの部署でたくさんの人が仕事をしています。
大変そうなところ
もちろん、検察庁内部の細かい仕事は分かりません。
しかし、はたから見て大変そうだなと思うところはいくつかあります。
裁判員裁判時の帰宅時間
私が準抗告の当番で残業していて、21時頃に検察庁から借りていた捜査記録を返却しに行ったとき、
公判担当の検察事務官の帰宅と鉢合わせました。
「いつもこの時間なんですか?」
と聞いたら、
「裁判員裁判をやっているときはだいたいそうです。」
と言っていました。
また、裁判員裁判の制度が始まって、その庁で初めての裁判員裁判が行われることになったとき、
担当の検察庁刑事部の検察事務官は、
「泊まりですよ。」
と言っていました。
当時は事務処理なども確立していなかったからそういう状態になっていたのではないかと思います。
が、どちらにしろ、大変だと思います。
出張
捜査担当の検察事務官が検察官と出張で不在です、ということがあります。
公判担当の検察事務官も、検察官と一緒に出張で不在だったりします。
裁判所は事件関係で出張するということがあまりないので、
「公判担当でも出張あるのか。大変だなぁ。」と思ったことがあります。
基本的に、どこに行ったかは聞かないのですが、一度聞いてみたら、
「被害者のところに行っている」と言われたことがあります。
被害者対応も検察庁のお仕事です。大変そうです…。
被害者対応
上で書いたとおり、被害者の方とやり取りするのも、検察官や検察事務官です。
被害者参加制度を利用して、被害者の方が裁判に参加するとなると、裁判所も気を使いますが、
直接対応する検察事務官は大変だと思います。
例えば、法廷で意見を述べたい、というときは、あらかじめ書面にして準備してもらったり、
裁判所からの要望を被害者の方に伝えないといけません。
想像の範囲を超えないのですが、結構大変なのではないかと思います。
むかしばなし
これまで話をしてきたとおり、裁判所事務官は頻繁に検察庁に行くので、顔見知りになったり仲良くなったりします。
私は、裁判所事務官時代に、毎日会う検察事務官の方と仲良くなり、お昼を一緒に食べに行ったこともありました。
ほかにも、
公判担当の検察事務官に用事があって執務室に行ったら、ちょうどバレンタインデーで、部屋にチョコレートが置いてありました。
「チョコレートいる?」と聞かれて、もらったこともありますし、
裁判所の備蓄として保管されていた乾パンが賞味期限切れになり、職員に配布されたときには、
「これいる?」と賞味期限切れの乾パンを検察事務官にあげたりしていました。
今はそんなこともしないのかもしれません。
裁判所と検察庁は物理的距離が近い方がいい。
このように、裁判所事務官と検察事務官は、お互いの庁を何度も行き来して、何度も連絡を取り合います。
重たい捜査記録の貸し借りも何度も行います。
雨の日も風の日も。
雨の日の台車運搬は本当に大変。
今は、チョコレートをもらったり、賞味期限切れの乾パンをあげたり、そういうことはしないのかもしれません。
立場が違うので馴れ合うことはしてはいけませんが、物理的な距離は近いほうがありがたいのです。
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