令和4年7月8日に起こった元総理大臣に対する銃撃事件に関して、この記事を書くことにしました。
今回の事件を基に、刑事訴訟法上の今後の流れについて考えてみます。
この事件そのものについての感想は書いていません。
また、この事件については、私も報道されている限りのことしか知りませんので、こういうことがあり得る、という程度で参考にしてください。
逮捕から起訴までの流れ
警察官は被疑者を受け取ったときは、48時間以内に証拠物や書類を被疑者と一緒に検察官に送致する手続きをしないといけません。
いわゆる「送検」というやつです。
そして、被疑者を受け取った検察官は、24時間以内に裁判所に勾留請求をしないといけません。
今回で言うと、事件があったのはおそらく7月8日(金)の午前11時30分くらいだと思うので、
7月10日(日)の午前11時30分より前には送検されるのではないでしょうか。
そして、検察官は24時間以内に裁判所に勾留請求をしないといけないので、7月11日(月)には勾留請求がされるでしょう。
表にするとこんな感じ。
事件発生(現行犯逮捕) | 7月8日 | 午前11時30分頃 |
警察→検察に送致(48時間以内) | 7月10日 | 午前11時30分まで |
検察→裁判所に勾留請求(24時間以内) | 7月11日 | 午前11時30分まで |
裁判所による勾留状の発付 | 当日~翌日 | 勾留状が出るまで |
勾留されると、原則10日間、最大20日間、さらに延長で、最長25日間勾留されます。
基本は20日間で起訴されるので、私は25日間勾留された被告人は見たことがありません。
仮に7月12日に勾留状が発付されたとすると、20日後は7月31日(日)です。
でも日曜に起訴されることはあまりないのでおそらく7月29日(金)に起訴される、
と思いきや。
鑑定留置が入るかも
重大犯罪をした被疑者に対しては、鑑定留置というものが請求されることが多いです。
被疑者の心身または身体に関する鑑定をさせる必要があるときは、検察や警察は裁判官に対して期間を定めて病院等に留置することができるんです。
これが鑑定留置というものです。
つまり、刑事責任能力に問題がありそうだと思われると、その精神状態を調べるために精神鑑定を行うんです。
期間は法律で定められていませんが、大体3か月の期間で請求される令状を見ることが多いです。
延長することも条文上可能です。
なので、仮に鑑定留置が入ると、起訴はもっと先になると思います。
報道を見る限りでは、鑑定留置になる可能性がありそうです。
ここで、刑事責任能力があるとなれば起訴され、無いとなると不起訴になります。
不起訴になった場合は、医療観察法という別の法律で処遇がなされると思います。(医療観察法についてはまたの機会に書こうと思います。)
どの裁判所で公判を行うのか
裁判所には、管轄といって、それぞれ担当する土地や物事が決まっています。
事物管轄と土地管轄といいます。
事物管轄は、刑の軽さや重さによって定められています。
・事物管轄
事物管轄は、罰金以下の刑に当たる罪の事件、及び、高等裁判所が第一審を担当する事件以外のすべての罪の事件が該当します。
今回は殺人罪(逮捕当時は殺人未遂)なので、地方裁判所が管轄になります。
・土地管轄
土地管轄は、その名のとおり、事件の土地関係に基づいて決められます。
刑事事件における土地管轄は、犯罪地、被告人の住所、居所もしくは現在地によります。
土地管轄で考えると、これのどれかに該当していればいいので、仮に犯罪地や被告人の住所が東京にあっても、被告人の現在地(勾留されている場所)が奈良であれば、奈良の裁判所が担当することになります。
今回は、犯罪地も被告人の住所も被疑者の現在地も奈良県にあるので、奈良地裁に起訴されることになりそうですね。
さらっと「奈良でしょ」「地方裁判所でしょ」と決まっているように見えますが、逐一条文に書かれているのです。
公判前整理手続
仮に鑑定で精神状態に問題がないとなると、殺人罪で起訴されることになると思います。(殺人未遂で逮捕、その後亡くなってしまったので。)
殺人罪は裁判員裁判の対象事件なので、必ず公判前整理手続が開かれます。
略して公判前。
公判前整理手続は、争点や証拠を整理して審理計画を立てて、裁判を円滑に進めるために行われるもので、非公開です。
被告人が罪を認めていても、弁護人が心神喪失(or心神耗弱)を主張することもあり得ます。
仮にそうなると、鑑定をしたお医者さんが証人として裁判所に呼ばれそうですね。
今回は事件が事件なので、裁判所の警備計画の策定、報道対応、傍聴券配布、書記官としても裁判所としても、これから大変だなぁ…
裁判員裁判対象事件です
先ほども書いた通り裁判員裁判の対象事件です。
日数がどうなるかはわかりませんが、みんなが知っている人の事件を担当することになります。
大きい事件で有名な事件だと、裁判所に呼ぶ裁判員候補者も多くなります。
通常は裁判員6人と補充裁判員2人が選ばれますが、日数が長かったり重大事件だったりすると、候補者を3人に増やすなど、裁判員に欠員が出ないように多めに選ぶこともあります。
事前準備も含めて、裁判員係も忙しくなりそうです。
さいごに
実際の事件を通じて逮捕から起訴、公判までの流れを書きました。
今回の事件に限らず大きな事件があると、「こんなこともありそう。あんなこともありそう」と、今後の手続きについていろいろなことが頭をめぐるのです。
裁判所の中でも色々な部署が関係し、さらに検察・弁護士とも密に連携を取って公判を進めていくことになります。
その連携を取る窓口が書記官になるので、「担当書記官大変だなぁ…頑張って…」という気持ちになります。
本事件の今後の流れには、注目していきたいと思います。
コメント